大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成4年(ワ)3661号 判決

主文

一  被告らは、連帯して、

1  原告門宏明に対し、二二一万四二八四円及びこれに対する平成四年六月一七日から完済まで年五分の金員

2  原告酒井研二に対し、一七一万四二八五円及びこれに対する平成四年六月一七日から完済まで年五分の金員

を支払え。

二  原告門宏明及び同酒井研二のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告両名の、その余を被告らの、各連帯負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

(以下、原告門宏明を「原告門」、原告酒井研二を「原告酒井」、被告正木啓之を「被告正木」、被告飯田義輝を「被告飯田」、被告藤本誠を「被告藤本」、被告島田良美を「被告島田」、被告松浦優を「被告松浦」と表示する。)

第一  請求の趣旨

一  被告らは、連帯して、

1  原告門に対し、三一〇万円及びこれに対する平成四年六月一七日から完済まで年五分の金員

2  原告酒井に対し、二六〇万円及びこれに対する平成四年六月一七日から完済まで年五分の金員

を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二  当事者の主張

(請求原因)

一  組合契約の出資金

1 原告両名と被告ら五名は、平成二年一一月、出資金を一口一〇〇万円とし、同出資金でヨットを購入して当該ヨットを利用して航海等を楽しむことを目的とする契約を結んだ(以下、「本件契約」という。)。

2 そして、原告両名と被告ら五名は、本件契約の会員として、次のとおりの出資をし、ベネトー社製の四〇フィートの中古ヨット「アプラ号」(以下、「本件ヨット」という。)を一四〇〇万円で購入した。

(一) 原告 門 二口 二〇〇万円

(二) 原告 酒井 二口 二〇〇万円

(三) 被告 正木 三口 三〇〇万円

(四) 被告 飯田 二口 二〇〇万円

(五) 被告 藤本 一口 一〇〇万円

(六) 被告 島田 一口 一〇〇万円

(七) 被告 松浦 三口 三〇〇万円

合計一四口 一四〇〇万円

二  ヨットの係留権取得費用の立替金

1 ヨットを所有するは、ヨットの係留場所の確保が必要であり、そこで、本件ヨットの係留権を取得するため、係留権付の中古ヨット「アスカ号」を二五〇万円で購入することになり、平成三年一月末頃、原告門及び同酒井が各一〇〇万円、被告正木が五〇万円を立て替えて支払った。

2 その後、右中古ヨットの「アスカ号」が一三〇万円で売却され、その売却代金から、被告正木に五〇万円、原告門及び同酒井に各四〇万円が支払われたが、原告門及び同酒井の立替金各六〇万円は未払いのままである。

三  桟橋工事費の立替金

1 ヨットを係留するにあたって、桟橋の取り替え工事をする必要が生じ、平成三年五月頃、同工事をした業者に支払うべき工事代金五〇万円を原告門が立て替えて支払った。

2 しかし、右立替金は未払いのままである。

四  原告両名の組合契約脱退

原告両名は、平成三年八月、被告らに対し、組合から脱退する旨を伝えた。

五  よって、被告らに対し、連帯して、

1 原告門に対し、出資金相当の持分払戻金二〇〇万円並びに係留権取得の立替金六〇万円及び桟橋工事費の立替金五〇万円の合計三一〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成四年六月一七日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金

2 原告酒井に対し、出資金相当の持分払戻金二〇〇万円並びに係留権取得の立替金六〇万円の合計二六〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成四年六月一七日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金

の支払を求める。

(被告らの答弁)

一1  請求原因一1は認める。同一2は、被告正木が本件契約の当事者であり、出資者であるとの点を除いて、認める。被告正木は会員でもなく、出資者でもない。被告正木の経営する正木刃物株式会社が会員であり、出資者である。

二  同二1及び3は認める。

三  同三1及び2は認める。

四  同四は否認する。原告両名が退会の申し入れをしたのは平成三年一二月四日である。

五  同五は争う。

(被告らの主張)

一  本件契約はヨットライフを楽しむためのクラブであり、規約において、会員は他の会員の承認を得て持分を譲渡することが認められているだけであり、それ以外に任意退会することは認められていないから、原告らの主張するような持分払戻請求権はない。

二  仮に、右主張が認められないとしても、本件契約は存続期間を本件ヨットを将来売却するまでと定めているから、「やむを得ない事由」がなければ退会することはできないところ、原告らにはそのような事由はない。

三  また、組合の存続期間の定めがなかったとしても、本件組合は単独でヨットを購入できない者が出資して結成したしたものであり、結成して間もない時期に退会を申し出ることは他の会員に予想外の不当な出費を強いることになるばかりでなく、場合によってはヨットを処分しなければならない事態にまで発展しかねないから、原告らの退会申し出は他の会員のために不利な時期の退会申し出にあたり、また、原告らの退会申し出には「やむを得ない事由」はないから、原告らの退会申し出は無効である。

四  仮に、任意の退会が認められ、持分の清算が認められるとしても、それは本件組合の活動が終了してヨットが処分されたとき、若しくは、ヨットの評価が話し合いや客観的査定等の方法により合意に達したときを基準とすべきである。

五  原告両名が被告らに請求できる金員は、係留権取得費用の立替金に対する被告らの負担割合である一四分の一〇にあたる八五万七一四三円と桟橋工事費に対する負担割合である一四分の一〇にあたる三五万七一四三円の合計一二一万四二八六円であり、被告らは平成四年一月一〇日に原告らに対し右金員の支払について履行の提供をした。

(被告らの主張に対する原告らの認否)

被告らの主張はすべて争う。

第三 証拠関係(省略)

理由

一  組合契約の出資金について

1  請求原因一1は当事者間に争いがなく、同一2も、被告正木が出資会員であるとの点を除き、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一号証及び被告松浦の本人尋問の結果によれば、本件契約の当事者として契約締結にあたったのは被告正木であることが認められる。しかるところ、原告門及び被告松浦本人の各尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件契約は原被告らが共同して出資した出資金で本件ヨットを購入し、原被告らにおいて本件ヨットを利用して航海等を楽しむことを目的とする組合契約であることが認められるので、本件組合契約の組合員は被告正木であるというべきである。

なお、乙第二号証には正木刃物株式会社が会員である旨の記載があるが、右会社が本件契約の当事者として締結にあたったことを認めるに足りる証拠はなく、また、乙第一六及び第一七号証には正木刃物株式会社が出資金の払込金を支出したことが記載されているが、それらは被告正木と右会社との間の資金流用の問題と考えられ、他に原被告らとの間で右会社が当事者となって本件契約を締結したとの経緯を窺わせる事情も認められないから、右乙号証もって右認定を覆すには足りないといわなければならない。

2  しかるところ、原告門及び被告松浦の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告門及び同酒井は平成三年八月に退会の意思を表示していたこと、同年八月末までには被告らも原告両名の退会の意思を知っていたことが認められるから、原告らの退会の意思表示は遅くとも同年八月末には被告らになされていたと認めるのが相当である。

3  ところで、被告らは、規約上会員の任意退会は禁止されているとか、本件契約は組合の存続期間について定めがあるとか、原告らの退会は組合にとって不利益な時期であるから許されないとか主張して抗争しているが、本件契約は、前記のとおり、要するに遊びを目的とするものに過ぎず、会員の任意の退会を禁止するような強制的な拘束をしなければならない合理的理由はなく、また、被告松浦は乙第一号証を任意脱退禁止の趣旨で作成したと供述しているけれども、同号証には任意脱退を禁止することを端的に明示した規定はなく、また、本件全証拠をもってしても、会員間において任意の脱退を禁止することを協議して取り決めたという経緯は認められないから、組合員間に任意脱退禁止の合意が成立していたとは到底認めることはできず、また、存続期間の定めの点についてもこれを認めるに足りる証拠はなく、また、原告らの退会が組合にとって不利益な時期であるとの点も、弁論の全趣旨からすれば、被告らの言い分は時期的な問題というよりも、もともと被告らに持分払戻の資金的余裕がないということに尽きるものであるから、原告らの脱退が本件組合にとって不利益な時期にあたるとはいえないので、結局、被告らの右主張はいずれも採用の限りのものではないというべきである。

4  そうすると、原告らの脱退により、原告らと本件組合との間で財産関係の清算をすることになるが、鑑定結果によれば、原告らが脱退した平成三年八月末当時における本件ヨットの価格は九五〇万円であることが認められるから、本件組合は原告ら各人に対し、右九五〇万円に対する持分割合の一四分の二にあたる一三五万七一四二円(円未満切捨て)の払戻義務があることになる。

なお、被告らは、ヨットの清算について、本件組合の活動が終了してヨットが処分されたとき、若しくは、ヨットの評価が話し合いや客観的査定等の方法により合意に達したときを基準とすべきであると主張するが、財産関係の清算は脱退時を基準としてすべきものであり(民法六八一条一項)、被告ら主張の時期を基準とすべき法的根拠はないから、採用の限りでない。

二  ヨットの係留権取得費用の立替金

1  原告門及び原告酒井がヨットの係留権取得費用として立て替えた金員のうち各六〇万円が未払いであることは、当事者間に争いがない。

2  そうすると、本件組合は、原告門と原告酒井にそれぞれ六〇万円の立替金債務を負担していることになるから、右原告らが本件組合を脱退するにあたって、原告ら各人に対し、各原告の負担割合である一四分の二を差し引いた四二万八五七一円(円未満切捨て)を支払う義務があることになる。

三  桟橋工事費の立替金

1  原告門が立て替えて支払った桟橋の工事代金五〇万円が未払いであることは、当事者間に争いがない。

2  そうすると、本件組合は、原告門に右五〇万円の立替金債務を負担していることになるから、同原告が本件組合を脱退するにあたって、右原告に対し、同原告の負担割合である一四分の二を差し引いた四二万八五七一円(円未満切捨て)を支払う義務があることになる。

四  清算金の支払

1  原告門に支払われるべき清算金

右一ないし三によれば、原告門に支払われるべき清算金は、ヨットに対する持分の一三五万七一四二円、係留権取得費用の立替金の清算金四二万八五七一円及び桟橋工事費の立替金の清算金四二万八五七一円の合計二二一万四二八四円ということになる。

2 原告酒井に支払われるべき清算金

前記一ないし三によれば、原告酒井に支払われるべき清算金は、ヨットに対する持分の一三五万七一四二円及び係留権取得費用の立替金の清算金四二万八五七一円の合計一七八万五七一三円から原告門が立て替えた桟橋工事費についての原告酒井が負担すべき一四分の二にあたる七万一四二八円(円未満切捨て)を差し引いた一七一万四二八五円ということになる。

3 ところで、被告らは、ヨットの係留権取得費用の立替金及び桟橋工事費の立替金の清算金について弁済の提供を主張するが、それらの金員では右認定の清算金には及ばないから、弁済の提供としての効果はないといわなければならない。

五 そうすると、原告門の請求は二二一万四二八四円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成四年六月一七日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払いを求める限度において、原告酒井の請求は一七一万四二八五円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成四年六月一七日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払いを求める限度において認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用につき民訴法九二条及び九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例